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肌感覚の世界にデータで切り込む。トレンド分析サービスはファッション業界に何をもたらすか | Ledge.ai

※この記事はデータサイエンス専門メディア「Da-nce」からの転載です

袖部分がふんわりしているボリューム袖は、今年がトレンドのピークかもしれない。来年も続くかどうかは注視する必要がある――。

ファッションAIによるトレンド分析サービス「#CBK forecast(カブキフォーキャスト)」を提供する、株式会社ニューロープ代表の酒井聡さんは、膨大なデータからファッションアイテムの行く先を語る。

株式会社ニューロープ 酒井 聡氏
ファッションに特化したAIをファッションEC、メーカー、メディア、商社等にSaaS提供するスタートアップ、ニューロープの代表。リコメンデーションやパーソナライズ、トレンド分析、需要予測、オペレーション支援など、ドメインにフォーカスしてバーティカルに取り組む。2018年東洋経済誌の「すごいベンチャー100」選出。
九州大学芸術工学部でアートとサイエンスを学んだ後、2009年より㈱マイナビでマーケティング、広告、エディトリアル、オペレーション、営業支援等を担当。2012年より㈱ランチェスターでウェブアプリ・スマホアプリの企画、情報設計、デザイン、開発のディレクション、運用に携わり、2014年に同社設立。
中小企業診断士/グラフィックデザイナー/エディター。

データが導く「今流行のこのアイテム、いつまで続く?」

ファッショントレンドを知ろう、となったら、10年くらい前までなら繁華街を歩く、もしくは有名雑誌のファッションスナップをなめるように見るくらいだった。

今はインスタグラムやWEARをはじめSNSで情報収集はできるものの、レコメンド機能やハッシュタグを使って自分の好みにあわせていくと、得られる情報は(良くも悪くも)限られてくる。

「雑誌を読む」「インスタを見る」だけでは集まらない大量のデータから、#CBK forecastはいろいろなファッションアイテムのアップトレンド・ダウントレンドを導き出す。

冒頭で触れたボリューム袖を同社の「トレンド分析グラフ」で見ると、前年比、月次の伸びがともにプラスの値をつけている。つまり現時点ではまだ伸び調子にあることを示している。

しかしトレンドはいずれ収束する。この収束するタイミングを見誤って大量の在庫を抱えて(あるいは大きな売り逃しを生んで)しまう問題が繰り返されている。

「ダウントレンド」の兆候をいち早くキャッチすることが求められている格好だ。現在、レポートの「ダウントレンド」に入っているキーワードには、「総レース」「へそ出し」「フード」などが並ぶ。

提供:ニューロープ「ファッションAIによるトレンド分析レポート」

では逆に、これから人気が出そうなアイテムは?

――酒井
「いま急速に伸びているのがワイドパンツです。去年からスナップ数が増えていき、2021年に入ってからも勢いが続いています。ビッグシルエットブームなので伸びていることは当然なのですが、#CBK forcastでは具体的にどれくらい伸びているのか、定量的に示せるところに意味があると思っています」


「ワイドパンツ (bottoms)」のトレンド推移

スキニー(ボトムス)やチェックシャツのような、長い期間着られている定番アイテムはどうなのだろうか?

――酒井
「スキニーはワイドパンツの裏返しで、ダウントレンドが続いています」

形や柄だけでなく色にもトレンドがあって、たとえば最近伸びているのがベージュです。2019年からのナチュラルカラーの流行とあわせてベージュが伸びている反面、他の定番色のホワイトやブラックがやや影響を受けています」

「ベージュ(tops)」のトレンド推移

すでに定番だと思うようなアイテムにも、トレンドの波があるようだ。

#CBK forecastの分析対象タグは1千万超

トレンド分析サービス#CBK forecastは、SNS(Twitterやインスタグラム、インフルエンサーの投稿画像)やブランドコレクションなどのコーディネート画像を大量に集めて、画像解析でアイテムをタグ付けしデータベース化。1千万点にものぼるアイテムをデータ分析し、結果から得られた「トレンドデータ」をアパレル企業の商品開発部門(マーチャンダイザー、以下MD)や小売店などに提供している。

提供:ニューロープ「ファッションAIによるトレンド分析レポート」

各アイテムの色や形、素材などのタグ付けとあわせて、年齢や性別、服のブランド名なども収集。Face APIを使い「21歳から24歳の人はどういうアイテムが着るのか」「このブランドの服を着ている人はどういうスタイリングを好むのか」といった情報も分かるという。

また一部のインスタグラマーとからは契約を通じて、スナップの第三者提供の許可も得ている。トレンド入りしているアイテムをどう着こなしているか、実際のスナップが見れるのだ。

提供:ニューロープ「ファッションAIによるトレンド分析レポート」

勘や経験、肌感覚だけに頼ってきたファッションの世界に、#CBK forcastはメスを入れていく。

――酒井
「#CBK forecastをリリースしたとき、ブランドをはじめ小売店、商社、メディアなどファッションに関わるさまざまな企業から反応をいただきました。そのとき一番多かったのが、『今売り出しているアイテムを追加発注すべきか知りたい』『ダウントレンドを検知したい』など、意思決定の根拠を求める声でした」

酒井さんによると、売れ行きが好調なので追加発注したものの、店頭に並ぶまでのリードタイムのうちにトレンドの潮目が変わり、売れ残りとなってしまうケースは少なくないという。#CBK forcastでは特定のアイテムがダウンドレンドに入りそうだと予測・検知し、必要以上に在庫が増えるのを防ぐ。

トレンドの瞬間最大風速をとらえるだけでなく、アイテムごとの時系列トレンドデータを追えるのも強みだ。季節要因などを加味しながら膨大な生データを時系列に加工するのは、分析上難しく、導入企業の担当者が業務の片手間でExcelでまとめる、というのはほぼ不可能といえる。

企業向けの「前処理サービス」として、データの加工・提供も手掛けている。時系列データを読み解くことで、このアイテムはトレンドが続いて来シーズンも売れそうだ、といった傾向をつかめる。

「#CBK forecast前処理サービス」イメージ画像

新しいアイテムが生み出される過程もまた、感覚の世界だ。

新製品の開発は、直近のファッションコレクションから分析したり、MDが「今年はこのアイテムでいく」と肌感覚で掴んだトレンドから企画を進めたりするパターンも多いという。

酒井さんは、データを意思決定のひとつのツールとして使ってほしい、という。

――酒井
「業界の方はトレンドに敏感ですし、感覚も優れています。一方で、発注量をどれくらいしたら良いか、という細かな定量部分まではなかなかわからないものです。
あくまでもコンセプトやデザインのディティールは人が取り組むべきものとする前提の上で、数値的な意思決定部分で参考にしてもらえたら嬉しいです」

「忙しいマーケター向け」に、トレンドランキングTOP3がひと目で分かる資料も用意。提供:ニューロープ「ファッションAIによるトレンド分析レポート」

データ分析×ファッションの新しい可能性

ファッションの世界でデータ分析が生きてくる場面は、アパレルメーカーの発注だけではない。たとえば、バックヤード(店舗裏)に抱えがちな在庫アイテムにもスポットを当てる。

――酒井
「店舗には新しいアイテムがどんどん入荷されます。VMD(※)のような指示もある中で、目立たない店舗の奥に追いやられてしまうアイテムもあります。そうした奥まっているアイテムをトレンドに照らして、『このアイテムは今プッシュしたら売れる』というような提案をすることも可能です」

※VMD(Visual Merchandising):視覚的に訴求する手法、あるいは販売戦略

ほかにも商社の担当者がメーカー向けにコンサルティングをするときの説得材料としてのデータ、ファッションから趣味嗜好に合いそうな広告を推定・提示するデジタルサイネージなどの展開も可能とのことだ。

今後、#CBK forecastはどういう進化を遂げようとしているのか。酒井さんは、トレンド先読みの精度向上と、影響の予測モデルの提供を考えているという。

――酒井
「例えば先週のデータをただ眺めていても、ブラックやベージュ、Tシャツといった定番の特徴が頻出していることが認められるだけです。#CBK forecastは、前年やその前と比較してどのように推移しているか、相対性の中でトレンドの変化を捉えることができます。2年、3年とデータを継続的に収集することで意味が生まれてくるのです。

いま力を入れているのが”もっと先読み”する機能です。

ファッショントレンドは、今でもラグジュアリーブランドのコレクションの影響が強く、ブランド、小売、インスタグラムのインフルエンサーさん等が要素を取り入れて、ちょっとずつ一般層に広がっている、という流れで作られます。

コレクションで出現したアイテムと、半年後・1年後のインスタ上のトレンドに相関がありそうだということは見えてきているので、もう少し突き詰めて、予測モデル化して提供したいです」

ファッションだけでなく、最終消費財や製造業への横展開も検討しているという。ファッション業界だけでなく、いわゆる20世紀型の資本主義の大量生産・大量消費(過剰供給)モデルを脱する、一筋の光になるのだろうか。




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