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ナッジで”楽しく”問題解決。英HUBBUBに聞く、人を巻き込むデザインとは? | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD

「最高のサッカー選手といえば、メッシ?ロナウド?」──ごみ箱に書かれた質問に、たばこの吸い殻で投票する。ごみ捨てに投票という遊び心を加えたこの「投票ごみ箱」は、英国で行われた、喫煙者のポイ捨てを防ぐプロジェクトで制作されたものだ。この取り組みは、ナッジ(行動経済学)を用いたプロジェクトの成功事例として日本のメディアでも取り上げられ話題を集めた。

この投票ごみ箱を手掛けたのが、「遊び心溢れる」「楽しい」発信で環境問題への啓発を行うロンドンの環境団体HUBBUBだ。彼らは、インスタレーション、動画などを用いたオリジナルキャンペーンの企画や、企業とのコラボレーションやコンサルティング等、様々な方法を用いながら、地球にやさしいライフスタイルの提案を行っている。

人々を楽しく巻き込みGOODな変化を促す「デザイン」とは?HUBBUBの考える「伝わるコミュニケーション」とは?代表のトレウィンさんにお話を伺った。(※インタビューは2019年秋に実施)

思わず気になっちゃう。楽しくて、遊び心のあるキャンペーン

Q.HUBBUBとは?

トレウィンさん:HUBBUBは、環境的なメッセージを多くの人に届けるために立ち上げた組織です。近年、海洋プラスチック問題についての度重なる報道を目にしたり、自身の身をもって異常気象を経験したりするなかで、英国においても環境への問題意識は急速に高まってきました。しかし、いまだ多くの英国市民たちが環境問題について無関心であるのも事実。ですから、私たちは企業や投資家たちを巻き込みながら、従来の方法とは違った「思わず興味をそそられる楽しげな」アプローチで環境問題について人々に訴えていこうとしています。

HUBBUBは、財団とソーシャル・エンタープライズの2つの機関から成り立っています。チャリティ団体である財団では主に「環境問題を啓発するクリエイティブで遊び心のある実験的なキャンペーン」を実施。ソーシャル・エンタープライズでは、活動資金を調達したり財団で行った取り組みの規模を拡大させたりしています。違った特徴・役割を持つ2つの団体が、同じミッションのもとで活動をしているのが特徴ですね。

トレウィンさん

トレウィンさん

Q.これまでにどんなプロジェクトを行ってきたのですか?

トレウィンさん:様々なキャンペーンをやってきましたが、よく行っているのは「自分の行動が環境にどう影響を及ぼしているのか」を視覚的に示すキャンペーン。その一つの例が「ブライトフライデー」です。これは、アメリカから流入した大規模セール「ブラックフライデー」に対抗しようと企画したものです。

ブラックフライデーはもともと、アメリカのサンクスギビングデー(感謝祭)に合わせて毎年11月に開催される大きなセールの風習でしたが、近年ではアメリカに倣って様々な土地で開催されるようになりました。このビッグセールは、普段は手を出しづらい高価なモノすら破格の値段で手に入れられる絶好のチャンス。言い換えると、多くの人がついつい自分に必要のないモノまで買ってしまうことの多いイベントだとも言えます。

これをどうにかできないだろうかと考えて、あるストリートに「英国で3分毎に捨てられている洋服の量」を見せるインスタレーションを設置しました。通行人に「あなたはすでに十分な量の服を持っているというのに、どうしてもっと服を買う必要があるの?」とビジュアルで訴えかけたのです。「外を出歩いて多くのお金を使うブラックフライデーではなく、友達との時間を過ごしたり、自分のための時間をつくったりする『ブライトフライデー』を過ごしてみてはどうか」という提案を行いました。

他にビジュアルで示したプロジェクトで印象的だったのは、国内の古く美しい森で行った「Love your Forest」というもの。そのプロジェクトの取り組みの一つとして、「ごみショップ」という展示を行いました。ショップとは言っても、実際に何かを購入できるわけではありません。森の中を一日歩き回って見つけたごみを全て拾い、それらを貸店舗にずらりと並べたのです。お菓子の袋やドリンクボトルなど、ショップに並んだパッケージが30年前のものだと気づいた客たちは「プラスチックはこんなにも長い間同じような状態を保っているのか」とショックを受けていましたね。

また、「見せる」だけでなく実際に人々に「参加してもらう」キャンペーンを行うこともあります。その一つが「プラスチック・フィッシング」です。こちらは、プラスチックのリサイクルを促したくて行ったキャンペーン。回収したプラスチックごみからつくったリサイクルボートに子供たちと一緒に乗りこみ、川に浮かぶプラスチックごみを釣っていきました。魚ではなくプラスチックを釣り、集まったプラスチックごみから、また別のボートをつくる。こうして小さな循環を実際に体験してもらうことを通じ、サーキュラーエコノミーのありかたについて子供たちに伝えたのです。実用的でもありビジュアル的にも美しい印象的なプロジェクトでしたね。

“信念に共鳴する顧客”の存在が、企業の良い変化を支える

Q.企業と協業してプロジェクトを立ち上げることも多いようですが、企業に勤める人たちの環境意識にも変化が見られますか?

トレウィンさん:はい、変化してきていると思います。少し前なら「利益にならないからそんな決断はできない」と考えられていたようなアクションでも、それが環境のための「正しい」ものなら実行しようとする企業が増えてきているように感じられますね。

HUBBUBがスターバックスと一緒に「使い捨てコーヒーカップ」の問題へ取り組んだときの例をご紹介しましょう。コーヒー店やコンビニで広く使われているコーヒーのテイクアウトカップは、一見「紙」に見えますが、実は内側にコーティング剤が塗られているため、分解やリサイクルが難しいことで知られています。

この使い捨てカップの使用をなるべく減らせるように、コーヒー店等ではこれまでも「マイボトルを持参した客に値引きを行う」「スタンプカードにおまけのスタンプを押す」など「報酬を与える」ことで客のマイボトル持参を促そうとしていました。しかし、私たちHUBBUBは普段からマイボトルを持ち歩こうと考えているような層だけでなく、より多くの人に「使い捨てカップをやめよう」と思ってもらう必要があるのではないかと考えたのです。そこで私たちは、スターバックスに「『使い捨てカップに』少額のお金を上乗せしてはどうか」 と提案。我々の提案を受けたスターバックスは、1カップにつき5p(ペンス)を上乗せして販売することにしました。

問題意識を持って行動している一部の顧客に報酬を与えるのではなく、全員に小さなプラス料金を課す。すると顧客側に「企業が何を考え、何を正しいと判断した上で、こうした取り組みを行っている」ということが伝わります。だからこそ顧客も「少し自分の出費が増えるけれど、これは正しいことなんだ」と思う。つまり、企業の環境への取り組みに対して「イエス」と言わざるを得なくなったのです。

このスターバックスの例のように、企業が「地球にとって正しいことをする」ため、顧客に+αの料金を課すなんていうことは、数年前にはあり得ないことでした。おそらく「顧客は自分たちが下したこの大きな決断を支援してくれるだろう」と企業側が確信を持てたときに正しい行動をとれるようになるのではないかと、私は思っています。

トレウィンさん

企業とキャンペーンを行う際は、企業側から声をかけてもらい、コンサルタント的に仕事をすることもあれば、HUBBUBから企業側に提案して一緒にプロジェクトを作っていくこともあるのだそう。

デザインは、人の行動を観察することから

Q.HUBBUBのプロジェクトのなかでも、ナッジ(行動経済学)を用いた「たばこの吸い殻のポイ捨てを防ぐ『投票ごみ箱』」は日本のメディアでも紹介され話題になりました。ナッジのテクニックはよく利用するのですか?

トレウィンさん:キャンペーンなどにナッジのテクニックを取り入れることはよくありますね。

ナッジは、行動変革を促す良いテクニックです。人は皆なにかしらの習慣や行動の癖を持っており、いつもと同じような行動をとりがち。そんな人間がいつもと違う行動をする小さなきっかけを与えるのが、ナッジなのです。

たばこを捨てようと思ったとき、そばにちょっとしたユーモアのある投票ごみ箱があれば、ポイ捨てするのを思いとどまってあっちに入れてみようかな、という気持ちになりますよね。このようにナッジの手法は「その瞬間にアクションを起こしてほしい」「すぐに行動を変えてほしい」という場合に適した方法です。

逆に言うと、ナッジだけでは完璧ではないということでもあります。ナッジで行動を変えることはできますが、人々のマインドセットを変えることはできません。ナッジ以外にも行動変革をおこすためのテクニックがあるので、私たちはプロジェクトごとに適したアプローチを使い分けたり、織り交ぜたりしています。

Q.個々のプロジェクトはどのようにデザインしていくのですか?

トレウィンさん:プロジェクトをデザインするときは、まず「人々の声を聞く」ことから始めます。世間で何が起こっているかを観察したり、人々と実際に話してみたり……そうすることで、人々がある行動をとったり取らなかったりするのはどんな要因に駆り立てられているからなのかを理解するのです。

次に、人々に行動を変えてもらうために、ナッジを含め、どんな行動科学のテクニックを用いれば良いかを話し合います。これは、先述のとおりテクニックごとにできることが異なるので、プロジェクトの目的ごとに最適なテクニックは何かを見極めなければいけないためですね。

そのあと、企業や政府、自治体など……「誰と一緒にプロジェクトを進めればプロジェクトのメッセージを効果的に広めることができそうか」を考えていきます。

そこまで考えたら、具体的に仕掛ける内容を考えるパート。「こういう仕組みのものなら、人々からはこんな反応が返ってくるのではないか」と仮説を立て、小さな実験を行い、効果を測定・分析していきます。自分たちが予想しながら組み立ててきたことが正しかったのかどうかを確認し、改善が必要なところに手を加えていく。その手順を繰り返しながらプロジェクトを作り上げていくのです。

小さな実験

Image via Pexels

ジブンゴト化してもらう仕掛けづくりを

Q.デザインするうえで大事にしていることは何でしょうか?

トレウィンさん:デザインフェーズにおいて私たちがすべきなのは、「自分には関係ない」と思っているものごとと、その人の間に「実は存在している小さなつながり」を見出だせるよう手助けをすることです。

これを実現するには、「人間は注意力が持続しない」ということをきちんと頭にいれておく必要があります。だからこそ、デザインは「ビジュアルに訴えかけるものであること」「パッと見てわかるものであること」「興味を引くものであること」であることが重要。「ソーシャルメディアでも注目を集められるかどうか」も考えたいですね。

過去の事例をひとつご紹介しましょう。以前HUBBUBでは、人々に「マイクロプラスチックの問題」が自分につながりのある問題だと認識してもらおうと、街中にあるインスタレーションを設置しました。

制作したのは、大きなドラム式洗濯機の模型。その洗濯槽の中に魚のフィギュアを泳がせました。洗濯機で化学繊維製の洋服を洗うとき、細かな繊維が抜け落ちており、水といっしょに流出してしまっています。そうした繊維はマイクロファイバーと呼ばれる、マイクロプラスチックの一種です。こうして海に流出した非常に小さなプラスチックを魚たちが食べ、その魚を私たちが食べている。この事実を、「洗濯槽の中で泳ぐ魚」というビジュアルで印象的に表現したというわけですね。

このようにビジュアル的に示せば、複雑なメッセージでも理解しやすくなります。そうすると、問題と自分との間にあるつながりを感じ、ジブンゴトとして引き寄せてもらいやすくなるのです。ただ文字や数字だけで伝えるよりもパッと見ただけで問題が伝わるように、見た人が直感的に理解できるように──相手にきちんと要点をわかってもらうためには、クリエイティブな伝え方をすることが大切だと常々感じています。

HUBBUBでは、どうすれば本当に人々の行動変革を促すことができるのかを、いつも考えています。

私は「どうしたら人々の背中を押して、やる気を引き出すことができるだろう?」と考えるときにこそ、人の行動を変えることができると思うんですよね。だからこそ、「クリエイティビティ」を持って「ポジティブなコミュニケーション」をデザインするようにしています。

環境問題というテーマは、ともすると憂鬱でネガティブなもののように捉えられることもありますよね。様々な専門用語が使われたり、問題を説明する際にたくさんの表やグラフが用いられたりもするので、難解なイメージを与えることもあります。

「ああしろ、こうしろ」とやかましく叫んだり、ネガティビティを利用したキャンペーンを行ったり……そんな「怒り」や「否定」のコミュニケ―ションでも人の行動変革を促すことはできますが、それでは相手に「これは自分の手に余る問題だ」と思わせてしまうことにもなりかねません。また、私たちは人々に罪悪感を抱いてほしくない、とも思っています。

ですから、「~しなければダメ」などとネガティブな言い方や懲罰を利用するのではなく「意外とできるものでしょう?」「やってみたらすがすがしい気分になれたでしょう?」というようにポジティブなメッセージで行動を強化していきたいのです。私たちがやることの全ては、ユーモアを用いることであり、良いコミュニケーションをとることであり、人々が思わず覗いてみたいと思えるようなわくわくすること──すべてが「ポジティビティにまつわること」なのです。

思わず「何だろう」と興味を引かれるような、楽しくて、一味違うやり方で人々にメッセージを訴えていきたいと、私たちはいつも考えています。

皆が口をつぐむことも、喜んで語る

Q.サステナブルになろうとしている企業のへのアドバイスをいただけますか?

トレウィンさん:正しいことをしたいと考えている企業は多くあるようですが、中にはビジネスを変える難しさを感じている企業も少なくないようですね。例えば、ファッション業界。ファストファッションを中心に回っており、売って売ってまた売って……というのが業界では当たり前になっています。そういうふうにシステムがサステナブルではないと、変化を起こしづらいこともあるのです。

ですから、ビジネスを変えようと思ったときに考えなくてはならないのは、「サーキュラーな仕組みをつくること」だと思います。今後はどの商品も全体的なライフサイクルを考えて、ワンウェイモデルではなくループのなかに組み込めるようにしなければなりません。これは大きな挑戦ではありますが、今こそそうした方向へとシフトチェンジしていく必要があるのではないかと思います。

サーキュラーシステム

Image via Pexels

私たちは現在、環境的な危機に面している。そして今は、皆が正しい行動をとらなければいけないときだと思います。しかし、多くの人が「自分たち人間が過去に犯してきた間違いについては語りたくない」と感じているように思えてしまいます。

ですが、私たちはそうしたテーマについて喜んで語りたい、と思っています。個々人が問題に気づき、「何かを変えよう」と思える環境を形作っていくこと──それこそが大事なのだと考えているからです。それと同時に「より簡単に正しい行動を成し遂げられるようなシステム」を整えていけたら、問題は少しずつ良い方向に向かっていくのではないかと思います。

編集後記

“hubbub”──英和辞書を引いてみると、「どよめき」という意味が書かれている。なぜ、この単語を団体名にしたのだろう?そう気になっていた筆者は、トレウィンさんに団体名の由来を尋ねてみた。

「イエローを使ったデザインのロゴに、HUBBUBという名前──ぱっと見ただけでは環境団体だとはわからないし、何をしている組織なのかもわかりづらいですよね。こういう名前とロゴデザインにしたのは、『何だろう?』と興味を持ってもらえるようなちょっとした余白を設けておきたかったからなんです」と彼は言う。

組織を立ち上げたときに、“一般的な環境団体と同じような感じ”にはしたくないと思っていたトレウィンさん。彼は、他の団体の名前やロゴ、発信の仕方などをチェックしてみることにしたのだという。すると、たいていの団体がグリーンを基調としたロゴで「earth」などの“それっぽいキーワード”を使っていることに気づいた。

「団体名にした”hubbub”という単語は『がやがや』『大騒ぎ』などのように、ノイズを生み出すという意味。私たちがやりたいのは、まさに『ノイズ』を生み出すことなんです。」

トレウィンさんは、従来の環境団体が行ってきたような「環境アクションの提案」ではなく環境のことを考えながら自分も楽しく生きる「ライフスタイルの提案」を行いたいと考えていた。だからこそ、HUBBUBでは食べ物やファッション、地域のことなど人々が切実に興味を持っているであろうものごとについて、好奇心をそそるような形で発信してきたのだ。

──地球が大変なことになっているのに、まだそんな行動を続けているなんてダメだよ。この時代、こういうアクションをとるのが常識でしょう?それなのになぜ動かないの?──そんなふうに声を荒げたり、誰かを責めたりするやり方もある。例え話される中身が正論だったとしても、聞く側からしたらそれは単なる「思わず耳をふさぎたくなるようなノイズ」になってしまうのかもしれない。

HUBBUBが仕掛けるノイズはノイズでも「なんだか楽しそうで興味をそそる、人を惹きつけるざわめき」だ。──気になって覗きに来たら、いつの間にか問題について知ることができていた。楽しげながや騒ぎに参加するうちに、自分には関係ないと思っていた問題が、ジブンゴトになっていた。──彼らのノイズはそんなふうに自発的な気づきを促し、仲間の輪を広げていく。

私たちは、ともすれば、自分の信ずる正義に反する行動をする人間に憤り、なぜこんなに当たり前のことを言っているのに伝わらないのかと悲しみ、あんな奴がいるからいけないのだと責め立ててしまうものだ。怒り、憎しみ、妬み……そんな感情を誰かに向けても、ポジティブな結果が生まれてくることはない。

ファッショナブルでスタイリッシュ、時にはコミカルで、遊び心がある──そんなHUBBUBの「ポジティビティ」を礎としたコミュニケーションは、楽し気な雰囲気で人々を惹きつける。どうしても伝えたいことがあるとき、どうしても声をあげなければならないとき、どうせなら、彼らのように「魅力的なノイズ」を生み出したいものだ、と思ったのだった。

【参照サイト】HUBBUB
【参照サイト】HUBBUB Instagram
【関連ページ】ナッジ(行動経済学)とは・意味
【関連ページ】サーキュラーエコノミーとは・意味

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