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<パラレルワールド 仮想と現実のはざまで>(下)容姿も動作も理想通り 精巧なバーチャルヒューマン:東京新聞 TOKYO Web

仮想空間で歌うバーチャルヒューマンの湘南乃風

仮想空間で歌うバーチャルヒューマンの湘南乃風

 音楽の世界でもVR(仮想現実)は浸透している。「パラレルワールド」(下)では、歌い踊るバーチャルヒューマン(VH)の最前線をリポート。その魅力、浮き彫りとなった懸念に迫る。 (林啓太)

 スマートフォンの画面の中で、四人組レゲエグループ「湘南乃風」が、トラックの荷台をステージに歌っている。背後には夜の東京・新宿の歌舞伎町を連想させる電光アーチ。ネオンの光が照らす道路は靖国通りを思わせ、路上をファンが埋め尽くしていた。

 昨年十二月二十日、コロナ禍を受け、インターネットで配信された仮想空間での“公道ライブ”。歌い手の姿は湘南乃風に違いないが、体は生身ではない。3D(三次元)CGで作成されたVHだ。動画に映る各メンバーの容姿は、実在の人間かと錯覚するほど精巧だった。

 四人はVRを使い、スタジオから出演した。人の動きをセンサーで記憶する「モーションキャプチャー装置」を体中につけ、歌や振り付けをそれぞれのVHで再現。CGで描かれた架空の場所とファンを背景に、現実さながらのライブとして映像化した。

 メンバーのRED(レッド) RICE(ライス)は「ファンの反応がじかに分からず、盛り上げられるか不安だった。でも繁華街の前で歌うなど、想像を超える演出ができるのは面白い」とうなずいた。

 人間がCGキャラクターの姿で歌手やアイドルを演じる「バーチャルユーチューバー(Vチューバー)」は、アニメ調の美少女キャラが多数を占めるが、VHの魅力はリアルな見た目にある。肌の発色も驚くほどきめ細かい。

◆新たな音楽表現

 3DCGの動画技術は、米国のハリウッド映画などで一九九〇年代から実用化された。日本では三年ほど前からネット広告などに登場。近年は新たな音楽表現に応用されている。将来は映画やテレビドラマの出演者として頻繁に目にする可能性がある。

YELLOCKの頭部画像。YELLOWの永松社長の頭の形を専用機器で立体データ化し、精巧なCGで再現した(YELLOW提供)

YELLOCKの頭部画像。YELLOWの永松社長の頭の形を専用機器で立体データ化し、精巧なCGで再現した(YELLOW提供)

 VRエンターテインメント制作会社、YELLOW(東京)が、一昨年の五月に発表した「YELLOCK(イエロック)」もVHのアーティスト。スマホ画面の中に男性が現れ、電子ドラムの演奏を披露する。画面を見ながらVHの周囲を回るように歩くと、全方位から演奏の様子を捉えることができる。

 同社の永松学社長は「聴く人に未知との遭遇を感じさせたい」と話す。実は社長自ら同じYELLOCKの名で、現実世界のアーティストとして活動。自身の姿を3DCG化させたVHを「デジタルツイン(双子)」と呼び、双方の体を使い分けながら、現実と仮想の世界を行き来している。

 VHはデジタル化された架空の存在とあって、病気やスキャンダルのリスクがない。移動を伴う生身のアーティストに比べ、公演などのコストも減る。容姿のほか、性格や動作を人間が自由に設定できるため、理想の形でVHの表現を演出できるのも利点だ。

 大容量のデータを瞬時に送受信できる次世代通信規格「5G」が普及すれば、高精細で滑らかなVHの動画を受信する端末も、スマホからスマートグラス(眼鏡型情報端末)などに替わるとみられる。「歌うアーティストの姿がグラスを通じ、空間に浮かんで見えるのでは」と永松社長。現実世界が拡張され、人間とVHが共存する近未来を思い描いている。

◆捏造など懸念

AI美空ひばりが歌った「あれから」のCDジャケット

AI美空ひばりが歌った「あれから」のCDジャケット

 現実と仮想の境目が見えづらくなった今、動画技術の発達には懸念もつきまとう。問題視されているのは、人工知能(AI)による画像や音声の処理技術を用いて、悪質な動画を捏造(ねつぞう)する「ディープフェイク」だ。

 米国では政治家の発言や行動が精度の高い偽動画としてネット上に拡散され、日本でも有名女優の顔を合成したポルノ動画が作成、公開された例がある。文章や写真に比べ、動画は見る者が本物だと信じ込みやすい。判別の難しさはVHにも共通しており、デジタル時代に応じた環境整備が急務となりそうだ。

 AIはディープラーニング(深層学習)機能の開発が進むと、人間のように自然な会話ができる。ネット広告に出演するVH「リアム・ニクロ」の運営会社ワンセック(東京)の宮地洋州(ひろくに)社長は、AIをVHそのものに搭載すれば「仮想のアーティストとも(双方向の)会話ができるようになる」という。

 既にVHの見た目や声で、AIが大きな役割を果たした事例がある。記憶に新しいのが、2019年のNHK紅白歌合戦で登場した「AI美空ひばり」。ディープラーニング機能で、亡くなった昭和の大物歌手の声や顔の表情を再現し、よみがえらせた。思いがけぬ“再会”に涙するファンも多かったが、この試みは音楽業界の内外で論争となった。

 死者への「冒涜(ぼうとく)」と批判した有名アーティストもいたが、ひばりと生年が同じ83歳の加山雄三は「歌声や姿が再現されるのは作品が素晴らしいから。(自分も)やってみたい」と肯定。ひばりの楽曲をカバーしてきた77歳の加藤登紀子は「AIをいい意味で活用できるならすればいい」と指摘する一方、AI美空ひばりを「かごの中の鳥」に例えて「空を飛ぶ鳥に比べたら、感動はしない」と付け加えた。

◆人間の限界超える力

<VR活用を支援する白井暁彦・デジタルハリウッド大大学院客員教授の話> 湘南乃風の仮想空間のライブのようなケースは増えていくでしょう。昨年発表のAIは細かな息遣いまで再現できるようになり、2007年に登場したバーチャル歌手「初音ミク」のデジタル音源より、人間の声との差は縮まっています。

 ディープフェイクなど、アーティストの顔を変えようとたくらむ人間は出てくるでしょう。しかし、改変された顔を検出する仕組みをつくる努力も進んでいます。仮想空間に見る非実在の人間に、違和感を覚える人は多いはず。われわれ技術者は、何よりも実在の人間が大事だと思っていますが、仮想空間では難病や障害で体が不自由な人でも臨場感のあるライブを楽しめる。VRには人間の限界を克服し、可能性を広げる力があるのです。


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