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【ビブリオエッセー月間賞】10月は『椿井文書-日本最大級の偽文書』、大阪府貝塚市の有薗花芽さん – 産経ニュース

ビブリオエッセー月間賞

月間賞を選ぶ江南さんと福嶋さん(左から)=大阪市中央区(須谷友郁撮影)
月間賞を選ぶ江南さんと福嶋さん(左から)=大阪市中央区(須谷友郁撮影)

本にまつわるエッセーを募集し、夕刊1面とWEBサイト「産経ニュース」などで掲載している「ビブリオエッセー」。皆さんのとっておきの一冊について、思い出などとともにつづっていただき、本の魅力や読書の喜びをお伝えしています。10月の月間賞は、大阪府貝塚市、有薗花芽さん(44)の『椿井文書(つばいもんじょ)―日本最大級の偽文書(ぎもんじょ)』に決まりました。ジュンク堂書店のご協力で図書カード(1万円分)を進呈し、プロの書店員と書評家による選考会の様子をご紹介します。

「本の面白さ伝える」(福嶋さん)、「展開の構成が見事」(江南さん)

--10月は中高校生からの投稿のほか、ノーベル文学賞の発表に合わせ受賞作家の本も紹介されました。まず全体の印象から

福嶋 本の内容を上手に紹介した上で、なぜその本を紹介したかったのかとか、どんな衝撃を受けたのかとか、そんな部分がきちんと書かれているものとそうでないものとの差があって、そこが大きかった気がしましたね。

江南 私は、若い人たちは本を読んでこれからの指針にし、ある程度の年齢になると、本から、過去の回想や人生の総括の要素を読み取るんだなと感じました。福嶋さんのおっしゃる、なぜその本を紹介したかったか、の動機ですね。書物に触れる年齢によって引き出されるものが異なるのがおもしろい。やはり若い人には前向きな感想が多いです。このコーナーにさまざまな世代の方が応募してくださればこそ、気づいたポイントです。

--個別にはいかがですか

福嶋 『満州 奇跡の脱出-170万同胞を救うべく立ち上がった3人の男たち』を中学2年生が取り上げていたのには、驚きました。小学6年生でこういう本を読んでくれ、きちんとエッセーにまとめてくれことが、まず嬉しかった。

江南 前月に引き続き、中学生からの投稿です。歯応えのある本をしっかり読んでしっかり考え、これから生きる上での指標となる点まで抽出していて、形が整ったいいエッセーだと思いました。

福嶋 『セカンドハンドの時代-「赤い国」を生きた人びと』はちょっと読んでみたい気になりましたよ。

江南 本当なら声をもたない人たちの声をどう聴くか、本当なら声をもたない人たちの声をどう聴くか、社会学的アプローチのノンフィクションです。誠実に読んで紹介してくださっています。ただ、文章に情報を詰め込みすぎた部分があったので、もう少し整理があればと思いました。他に気になったのが『考えの整頓 ベンチの足』です。うまいわけでも本筋を押さえているわけでもない感想でしたが、たしかに読書って、本の本筋から離れて違う想念にからめとられることがあるよなと感じられる結末でした。こんな、身の丈にあった感想がもっとあってもいいですよね。

福嶋 『椿井文書-日本最大級の偽文書』は紹介の仕方も上手だし、本自体のおもしろさが伝わってきてよかったなあと思いました。

江南 ハリー・ポッターの話を引き合いに出した導入から、でも実はそれと全く違う性質を持っているんだと展開する構成が見事。ご自身がおもしろいと思ったことをきちんと整理して書いたことで、興味がなかった読者の興味もひきつけます。

福嶋 時代小説は多かったですがこういう歴史ものはあまりなかったですね。

江南 新書らしい新書の紹介でうれしかったです。これを入門とし、専門書にハマっていけばいいわけで。最近の新書はなんでもありという感じなので…。

--著者は大阪府枚方市などの職員を経て現在は大阪大谷大学の准教授です

福嶋 そういう書き手が出てくるというのもうれしいですね。

--では『椿井文書』で

椿井文書
椿井文書

〈作品再掲〉

■めくるめくフェイクの世界

以前、アメリカのあるカトリック系の学校がハリー・ポッターシリーズを図書館から撤去したというニュースを聞いた。その理由が「悪霊を呼び起こせる本物の呪いや呪文が含まれているから」と知って、驚いた。しかしそこまで信じてもらえたのはファンタジー作家にとってむしろ冥利に尽きる話かもしれない。

架空の物語がリアルなため深く信じ込ませてしまった罪深くも壮大なシリーズは日本にも存在した。この本のテーマ「椿井文書」である。江戸時代後期、山城国椿井村出身の椿井政隆という人物が作成した偽文書、つまり「ある目的を持って偽作された古文書」の総称だ。

椿井政隆は利権が絡んだ村同士の争いがある場にもしばしば出没し、どちらかの村に有利にことが運ぶよう、ウソの情報が記載された複数の偽文書を作成したという。絵図や系図、縁起といった由緒を伝える古文書。人々は自分たちが信じたい、こうあってほしい情報を歓迎し、いつしか「歴史」として定着させてしまう。今風にいえばフェイクニュースだろう。困ったことに研究者が資料として使ったり、町おこしのため使われたりもしていたそうだ。

こだわるようだが、作成時の「悪意」こそが椿井文書をハリー・ポッターシリーズと一線を画す存在にしていると信じて読み進めていたのだが、いつしか遊び心をもって自己満足のため偽文書を作成する椿井政隆の無邪気な姿が目に浮かんできた。信憑性のある魅力的な由緒の筋書きに頭をひねる政隆さん。求めてきた顧客を喜ばせるのが仕事なのだから。

もちろん偽史との向き合い方を考えねばならないが悪者扱いもしたくないと椿井ファンを公言してはばからない著者。私もその影響を少なからず受けてしまったようだ。

〈喜びの声〉

夫が出張先で見たテレビ番組で「椿井文書」を取り上げていたのがきっかけでした。そこで紹介されていたこの本を薦めてくれたのです。歴史好きな夫と違いあまり興味のなかった私ですが、信じがたいニセモノの世界に夢中になって投稿しました。著者が椿井さんの思いを代弁しているような緻密な調査にもびっくり。以来、史実に関心をもっています。教えてくれた著者に、夫に、そして月間賞に選んでいただいたビブリオエッセーに感謝です。

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