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ワールドツアー“裏番組”にフォーカス 変則日程でひしめく豪華レースの動向を見る | Cyclist

 現在開催中のジロ・デ・イタリアで活況を呈しているロードレースのトップシーン。実は現在、ジロも含めて数々の注目レースがほぼ毎日、ヨーロッパ各地で開催されている。理由はもちろん、パンデミックによる変則日程によるもの。ありとあらゆるレースが新たなスケジューリングの結果、この時期に一挙ひしめくこととなった。9月下旬からは、実質“シーズン後半”に突入。ここからは、グランツールはもちろん、北のクラシックなどのビッグなワンデーレースもやってくる。そこでこのコーナーでは今回、手始めとしてジロの“裏番組”にフォーカス。ここ数週間の振り返りと展望を通じて、ぜいたくなまでのレース事情を実感してほしい。

9月29日から10月3日にかけて行われたビンクバンクツアーを制したマチュー・ファンデルプール。北のクラシックの主役候補筆頭に名乗りを挙げた Photo: Dion Kerckhoffs/Cor Vos © 2020

“激動”のビンクバンクツアーはファンデルプールが大逆転勝利

 UCIロード世界選手権閉幕直後の9月29日、シーズン後半戦の皮切りとしてビンクバンクツアーがスタート。10月3日まで全5ステージ、オランダとベルギーを舞台に開催された。

オランダで開幕したビンクバンクツアーだったが新型コロナウイルス感染拡大によって、第3ステージ以降はベルギー国内でのレース実施となった Photo: Dion Kerckhoffs/Cor Vos © 2020

 例年は8月中旬から下旬にかけて行われ、両国で開催される春のクラシックの要素を含んだステージレースだが、今年は約1カ月後ろへとずらしてのレース実施。ステージ数もいつもなら7ステージのところを、2ステージ分減らすこととなった。

 そうして始まった大会だったが、開幕して早々に第2ステージのキャンセルが決定。オランダで発令されたイベント実施制限により、レース通過を予定していた自治体の運営断念もあり、最終的に4ステージで争われる形に。第3ステージ以降はベルギーでのみの実施とし、オランダへ渡るルートはすべて変更となった。

 めまぐるしく情勢が変化した中で進んだレースだったが、選手たちは集中力を切らすことなくしっかりと対応。特に北のクラシックを見据える有力選手たちが顔をそろえ、彼らがやがて総合争いを演じていくこととなる。

第3ステージでは前世界王者のマッズ・ピーダスンが勝利 Photo: Tim van Wichelen/ Cor Vos © 2020

 第1ステージは、残り4kmのところでメイン集団前方で発生した落車によって多くの選手が巻き込まれ、フィニッシュでは50人ほどしか前線に残らない状況に。そんな中、スプリント勝負を制したのがジャスパー・フィリップセン(ベルギー、UAE・チームエミレーツ)。まずは大会最初のリーダージャージ着用者となった。

 第2ステージのキャンセルによって中1日開けて迎えた第3ステージも集団スプリント。このところフィニッシュ前でのスピードに自信をつけている前世界王者のマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が混戦の最終局面を制してステージ優勝。リーダージャージも奪取し、大会後半戦へと移っていく。

ツール・ド・フランスで活躍したセーアン・クラーウアナスンがビンクバンクツアーでも勝利。第4ステージの個人タイムトライアルでトップタイムをマークした Photo: Dion Kerckhoffs/Cor Vos © 2020

 当初ロードレースステージだった第4ステージは、2日前にキャンセルとなっていた個人タイムトライアルを急遽設定。当初の距離と同じく、8.1kmで各選手の走力を試した。総合争いのうえでもポイントとなるとみられた孤独な戦いを制したのは、ツール・ド・フランスでのステージ2勝がセンセーショナルだったセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チーム サンウェブ)が快勝。総合でも順位をジャンプアップさせ、2位に浮上。首位のピーダスンはこの日4位とまとめ、リーダーの座を押さえたまま最終日へと駒を進めた。

 そして、今大会のハイライトが最終日・第5ステージでやってきた。北のクラシックでおなじみのミュール・ファン・ヘラールツベルヘンやボズベルグが採用された187kmで、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が魅せた。

ビンクバンクツアー第5ステージ、個人総合での逆転をかけてマチュー・ファンデルプールが気迫のアタックを見せる Photo: Dion Kerckhoffs/Cor Vos © 2020

 残り80kmを切ったところでやってきた、2回目のミュール・ファン・ヘラールツベルヘンでファンデルプールはアタック。レース前半から逃げていた8人の先頭グループに合流すると、「前待ち」の状態にあったドリス・デボント(ベルギー)のアシストを受けながらメイン集団を引き離そうと試みる。さらには、3回目の同区間で再度のアタック。逃げメンバーを全員振り切って、残り50kmで独走態勢に持ち込んだ。

 メイン集団では、リーダージャージを守りたいピーダスンや、クラーウアナスンといった総合上位陣を中心に追撃を試みるが、なかなか思惑が一致せず、ファンデルプールとの差を縮めるのに時間を要する。クラーウアナスン、シュテファン・キュング(スイス、グルパマ・エフデジ)、オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール ラモンディダール)、ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・マクラーレン)に絞られた精鋭グループが残り10kmを切って猛追するも時すでに遅し。

 フィニッシュ前の石畳の上りも先頭でクリアしたファンデルプールが驚異の50km逃げでステージ優勝。ナーセンらは4秒差まで迫ったが、追いつくことはできなかった。

 この結果、レース途中でのボーナスタイムも確保していたファンデルプールが土壇場で逆転し個人総合優勝。UCIワールドツアーでは初のステージレース制覇を果たした。2位にはクラーウアナスン、3位にはキュングが続いた。そのほか、最終日に見せ場を作ったコルブレッリや、途中まで首位を走り続けたピーダスンなど、活躍した選手たちの顔ぶれは「北のクラシック前哨戦」にふさわしいものとなった。

後続の猛追をかわして逃げ切ったマチュー・ファンデルプール。ボーナスタイムと合わせて個人総合でもトップに立って大会制覇を果たした Photo: Tim van Wichelen/ Cor Vos © 2020

 力技ともいえる勝ち方を見せたファンデルプールは、この翌日にはリエージュ~バストーニュ~リエージュにも出場。優勝争いには加わることができなかったものの6位とまとめて、一連の流れには満足しているという。2連覇がかかっていたアムステル・ゴールド・レースの中止により、目標設定の変更を余儀なくされたが、「次の大きな目標はヘント~ウェヴェルヘムになる」と宣言。10月7日には、こちらも2連覇がかかるブラバンツ・ペイル(ベルギー、UCI 1.Pro)を走って、準備を整える公算だという。

北のクラシック開幕間近 注目レース展望

 ここからは、直近の注目レースを解説・展望していきたい。

 前述したブラバンツ・ペイルには、ファンデルプールやマイヨアルカンシエルのジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)といったビッグネームがエントリーした。

例年アルデンヌクラシック前哨戦として行われていたブラバンツ・ペイル。今年は北クラシック前の調整レースに。昨年はマチュー・ファンデルプールが勝利している ©︎ Photonews

 例年4月中旬に行われ、アルデンヌクラシック前の最終調整の場として使われることの多いレースだが、今年は来る北のクラシック前の調整レースに様変わり。今回は「可能な限り無観客に近い形でのレース実施」を目指す主催者の意向で、全行程の公開は控えられているが、従来通り丘陵地帯を走ることになりそう。フィニッシュ前の急坂「シャヴェイ」や勝負どころとなる「ヘルトストラート」といった登坂区間が組み込まれる周回コースの見どころは満載。石畳の上りもレース展開に変化をもたらすことが多い。まずは、このレースで有力選手たちのコンディショニングをチェックしたい。

北のクラシックは10月11日のヘント〜ウェヴェルヘムからスタートする Photo: Yuzuru SUNADA

 北のクラシックは、10月11日のヘント~ウェヴェルヘムから“開幕”する。秋開催に備えて、コースを一部変更。当初予定されていたフランス国境の通過や、いくつかの登坂区間をカットし、238kmのルートを再設定した。

 それでも、この大会ではおなじみのケンメルベルグ(登坂距離502m、平均勾配11.6%、最大勾配22%)はきっちりとコースに組み込まれた。今回は3回の通過が予定され、その3回目はフィニッシュ前約30kmのポイント。「スプリンターズクラシック」の1つにも数えられるように、これまで多くのスプリンターがチャンスをモノにしてきたレースだが、今回は果たして。コースの難易度もさることながら、集団を破壊するほどの強風や、天候でも展開は大きく変わる。

アレクサンダー・クリストフ(先頭)ら昨年のヘント〜ウェヴェルヘム上位3選手は順当にエントリー Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年、表彰台を占めたアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAE・チームエミレーツ)、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ロット・スーダル)、ナーセンの3人は今回もエントリー。もちろん優勝候補に名が挙がる。さらには、前述のファンデルプールが目標レースの1つに定めるほか、ツールやロード世界選手権での活躍が光ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)も参戦に意欲を見せている。そうそうたるメンバーがパヴェ最初のタイトルに挑む。

 また、同じ11日にはフランスで伝統のレース、パリ~トゥールが開催される。こちらはUCIワールドツアーから1つ下のカテゴリーである同プロシリーズだが、未舗装区間やレース後半に立て続けにこなす7つの登坂区間など、変化に富んだコースレイアウトが特徴。かつてはスプリンター優位のレースだったが、近年はクラシックハンター向きになり、混戦となることも多くなっている。この大会には、UCIワールドチームと同プロチームから22チームが参戦を予定している。

今週の爆走ライダー−マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 9月30日のラ・フレーシュ・ワロンヌでは殊勲の走りを見せた。スタートから10kmで逃げを打つと、しばし先頭でレースを展開。そして、メイン集団が迫ってくるのを悟った残り20kmでは独走に持ち込むアタック。「早い段階から逃げグループ内でのペースが合わなくなっていた。だからどこかで飛び出そうと思っていた」と、このときを振り返る。

ラ・フレーシュ・ワロンヌで長距離逃げを演じたマウリ・ファンセヴェナント。ユイの壁の入口まで先頭をゆく殊勲の走りだった © 2020 Getty Images

 結局、ユイの壁の入口まで逃げ続けた。残り4kmでの落車で勢いを失ったが、「あれがなかったら勝てたとさえ思っている」とレース後も強気を崩さなかった。もっとも、レース前から「調子がすごくよくて自信があった」というように、大仕事ができる状態を作り上げてこのレースに臨んでいた。

 この1日で全世界に名を売ったが、まだ21歳のプロ1年目。それも、7月にプロ入りしたばかりだというから、あの走りは誰もが驚いて不思議ではない。それでも、チームを率いるパトリック・ルフェヴェル氏に言わせれば、「将来的にはグランツールの総合成績を狙えるだけの能力がある選手。上りはまだまだ強くなる」と、その将来性に太鼓判を押す。アンダー23カテゴリーを走った昨年は、若手の登竜門「ツール・ド・ラヴニール」で1日だけながらマイヨジョーヌにも袖を通し、最終的に個人総合6位。先の見通しは明るい。

 本来ならシーズン当初からチームに招き入れる準備は整っていたそうだが、学業優先という本人の意向もあり、途中での加入となった。専門は機械工学で、先ごろ無事に学士を取得。「学位取得とプロサイクリングは比較はできない。まずは学校を卒業することが先決だった」と、これだけでも彼の意志の強さが見えてくる。セカンドキャリアもこの分野で、と考えているというほどに将来設計も着々と進めている。

 プロ入り前にすべきことを一通り終わらせ、これからはレーサーとしての生活に集中していく。充実感と悔しさが入り混じったラ・フレーシュ・ワロンヌを経て、この先はどんな道を歩むのか。首脳陣が期待するグランツールレーサーとなるのか、はたまた違った形で大成していくのか、その可能性は無限。ワンデーレースを中心に活躍した元プロの父(ウィム・ファンセヴェナント)を持つという血筋も、彼への期待値を高めるファクターになっている。

元プロロードレーサーを父譲りの才能で飛躍を目指すマウリ・ファンセヴェナント。将来的にはグランツールレーサーとしての可能性を首脳陣に見出されている © 2020 Getty Images
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」

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