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レトロンバーガー Order 56:20年以上を経て「そもそも生まれてこられなかった」ゲーム達が再誕している。眠っている魂を呼び起こせ編

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「頼まれなくたって、生きてやる!」

 富野由悠季氏の監督作品である,アニメ「ブレンパワード」のキャッチコピーです。

 “生きる”とは何でしょう。単に生物としての生命活動と定義することもできますが,目下の危機から逃げ回ってばかりで何もなし得ない人々を「クロノ・トリガー」のエイラは「お前達 生きてない。死んでないだけ」と批難しました。

 レトロゲームには,権利者が分からず,人気もそれほど無いため,実質的に“死んで”しまったタイトルが少なくありません。

 この話自体が古いものですが,例えば一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は,東京都写真美術館で2004年終盤〜2005年初頭に行われたゲーム博覧会「レベルX」のため,当時は権利者が表面的に不明だったファミリーコンピュータ用ソフトについて,情報提供の呼びかけを行いました。捜索対象となったタイトルは,「アストロファング」「うっでぃぽこ」「キョロちゃんランド」など156タイトル。

 約300件の情報提供があり,105タイトルについて権利者と連絡を取ることができたそうですが,逆に言えば51タイトルは不明のままとなったようです。

 捜索対象タイトルの販売元のうち,東亜プランはTATSUJIN,テクノスジャパンはアークシステムワークス,ホット・ビィはシティコネクションなど,今は版権管理元や版権の継承先が明瞭になっているものがいくつかあり,当時からすれば状況は改善されているでしょう。

 ですが,有名どころだと初期「ウィザードリィ」シリーズの権利元があやふやであるように,今もなお闇の中に埋没しているタイトルは少なくないはずですし,「販売権の所在は明確だけど版元が行方不明」というケースも散見します。さらには「旧作のリメイクにあたって強硬策を使い,権利をクリアした“ことになっている”」といった乱暴な話を聞くことすらあるくらいです。

 さらに,ゲームには「そもそも生まれてこられなかった」ものがけっこう存在します。

 開発中に資金が尽きて凍結されたもの。完成はしていたけど売上が見込めず,ソフトを生産するよりも販売中止の方が損失が少ないと判断されたもの。メインの開発者が退社して誰も手を付けられなくなったもの。

 一度販売されたものなら,まだ中古市場で流通したり,デジタルアーカイブにされたりもしますが,販売されなかったものはリークでもされない限り,人目に触れることすら叶いません。

 ですが!? 近年のレトロゲームブームの中,「そもそも生まれてこられなかった」ゲームが再開発されて世に出てくるという現象が,ぽつぽつと発生しています。Order 47で取り上げたメガドライブ版「マッドストーカー」や,Retro-Bitの英訳版「アンダーカバーコップス」も,その一種だと言えますね。今回はそんな“再誕ゲーム”でやっていきましょう。

嗚呼,斑鳩が行く……
望まれることなく,浮き世から捨てられし彼等を動かすもの。
それは,生きる意志を持つ者の意地に他ならない。

トレジャー「斑鳩」より

マジックキャッスル

 PlayStation用ソフト「マジックキャッスル」は,KAIGAというチームによって開発された,ローグライクスタイルのアクションRPGです。

 KAIGAのメンバーは,それ以前は「クイズ&バラエティすくすく犬福」「ソニックウイングス」シリーズなどで知られるビデオシステムに勤めていた,松並桂一氏と,ぴろを氏。KAIGAは法人登記をしておらず,両名によるサークル的なチームだったようです。

 ソニー・コンピュータエンターテインメント(当時。以下,SCE)は1996年5月から数年間,「ネットやろうぜ」と題した実験プロジェクトを展開していました。これは“クリエイティブ志向のある一般ユーザー”を対象に,PC/AT互換機向けのPlayStation用ソフトウェア開発ツールや,情報およびプログラム提供を行うためのサーバ,一般向け開発用PlayStation本体などを提供するもので,東京テクニカルカレッジなどの一部専門学校に教材として納入されたりもしたそうです。開発キットの価格は12万円と,家庭用ゲームの開発環境としては非常に安価でした。

 KAIGAは,ぴろを氏の叔母が経営していたペットショップの2階をオフィスとして,8か月ほどで「ジャンプアクションができるローグライクゲーム」というゲームのコンセプトを体験できるレベルまで制作を進めたそうです。そのゲームプレイを録画したVHSを複数社に送ったところ,SCEや著名RPGメーカーから好意的な返事が来たとか。しかし,SCEは同社プロジェクトへの参加を希望し,KAIGAは独自のゲームを開発することを目指していたため辞退。著名RPGメーカーは「マジックキャッスル」自体にOKを出したものの,開発に必要な人材はKAIGAが独自に調達することを望み,その時点で限界に至っていたKAIGAは応えられずに破談となったとのこと。

 KAIGAは解散し,松並氏とぴろを氏,そしてサウンドを担当した細井聡司氏はゲーム業界で仕事を続けつつも,「マジックキャッスル」は青年達の若かりしころの思い出で終わる……はずでした。ですが,2020年にぴろを氏がソースコードを発掘して公開。それにヨーロッパの「ネットやろうぜ」愛好家がキャッチし,スペインのGOBOUSEIが未完成だった部分を追加開発。2020年12月24日に,ちゃんと遊べる状態になったROMデータがリリースされました。



 4Gamer誌上で「法的にクリーンなPlayStationエミュレータの使い方」とか「ソニー・インタラクティブエンタテインメントの意図していない『プレイステーション クラシック』の使い方」とかを紹介するのは,ちょっとできかねる(一歩脇は完全ブラックですので)わけですが,その辺りを自己責任のもと自己解決できる人は,プレイしてみてはいかがでしょうか。くれぐれも「自己責任のもと自己解決できる人」ですよ! 「自己責任のもと自己解決できる人」!!

 さらに,「マジックキャッスル」のサウンドトラックがアメリカのレーベルからアナログレコードとして発売される予定もあるそうです。なんかもう新しいんだか古いんだかハイテクなんだかローテクなんだか,カオティックですね。また細井聡司氏は,そのサウンドトラックのCD版を制作し,3月6日に大田区産業プラザPiOで開催される「東京ゲーム音楽ショー2021」で販売する予定です。


Nuclear Rush

 家庭用ゲーム機向けのVRデバイスは,今のところ「PlayStation VR」が唯一無二の存在となっています。ですが,1990年代初頭に家庭用ゲーム機向けVRデバイスを計画していたゲームメーカーがありました。そんな無茶をやらかすのは,そう,みんな大好き僕らのセガです。しかも「八角形の赤外線デバイスで実際に身体を動かして格ゲーをプレイ!」とかやらかす(「Sega Activator」でググってみましょう!)Sega of Americaです。

 任天堂の「バーチャルボーイ」から遡ること2年,1993年にSega Genesis(北米版メガドライブ)用のヘッドマウントディスプレイ「Sega VR」が発表されました。価格はなんと200ドルという安さで,これはono-sendaiという新興企業からトラッキング機構を安価で調達することで実現したそうです。ちなみに「ono-sendaiって日系企業なのかな?」と思う人もいるかもしれませんが,ウィリアム・ギブスン氏の小説「ニューロマンサー」などに出てくる,デッキ(コンピュータ端末)メーカーのオノ=センダイに由来していると思われます。

 キャンセルになった理由は「体験が非常にリアルなので,プレイヤーが動き回って怪我をするリスクが高い」と公表されたそうですが,常識的に考えてそんなわけはありません。話によるとシンクタンクのスタンフォード研究所(現・SRIインターナショナル)が試験したところ「利用した子供が頭痛やめまいを訴える」という結果になり,発売中止となったそうです。

 それに向けて開発されていたゲームが何本かあったようですが,ハードウェア自体がお蔵入りとなったため,ゲームも当然封印されています。しかし2020年,Gaming AlexandriaやHit Save!といったゲーム保護組織に携わるDustin Hubbard氏に,Futurescape Productionsという会社でSega VR向けゲームを開発していたGoogleのテクニカルプログラムマネージャ・Kenneth Hurley氏から,「Nuclear Rush」というゲームのソースコードがもたらされました。

 「Nuclear Rush」は,石油燃料が枯渇した2032年を舞台に,核燃料を調達するため旧型原子炉を探索するといった一人称視点のシューティングゲームです。といってもid Softwareの「DOOM」みたいなFPSでなく,Atariの「Battlezone」みたいなビークル系のシューティングとなっています。

 そのソースコードをもとにVideo Game History FoundationのRich Whitehouse氏はサルベージを試み,HTC Vive Cosmos向けに移植を行いました。また,その過程で描画が15Hz固定であることも判明しました。そんなガックガクな映像で低解像度のVRなんてやらされたら,そりゃあ気分が悪くなるに決まっています。まして液晶もゲームギアみたいな残像バリバリのものだったでしょう。



 メガドライブの前世代機にあたるマスターシステムは立体視に対応(別売りの「3-Dグラス」を用いる)していましたし,日本のセガは1994年に横浜ジョイポリスで「VR-1 スペースミッション」というHMDを装着してプレイするアトラクションを提供していましたので,確かに当時のセガなら技術的には「家庭用ゲーム機向けのVRデバイス」を開発することも可能だったのでしょう。ですが,技術的に可能であるということは,人体の生理的性質に適応したものであるということとイコールではありません。

 Whitehouse氏は60Hz状態化などの改良を施し,GitHubでエミュレータおよびROMデータをリリースしました。HTC Vive向けではありますが,HMDが無くともWindows環境なら実行までは可能なので,試してみてはいかがでしょうか。こっちのエミュレータは権利的な危うさを避けられますし。

Race Drivin’(SA-1最適化版)

 「Race Drivin’」は,北米でAtariが1990年にリリースしたアーケード用レースゲームです。本作が特徴としているのはリアル志向のシミュレータ寄りな操作性と,ポリゴンを用いた立体的な描画。発売年的にも内容的にも,1988年のナムコ「ウイニングラン」と1992年のセガ「バーチャレーシング」の中間点といった雰囲気のゲームです。

 日本では1995年にセガサターン移植版,1996年にPlayStationアレンジ移植版「RACE DRIVIN’ a GO! GO!」がタイムワーナーインタラクティブ(当時)からリリースされただけですが,北米ではSuper NES(北米版スーパーファミコン)やSega Genesis,Amiga,ゲームボーイなどに移植されています。

 後年リリースされた「Midway Arcade Treasures 3」(PS2 / ゲームキューブ / Xbox)ではアーケード版ほぼそのままのゲームプレイを楽しめましたが,Super NESやSega Genesisで当時の最新アーケードゲームを満足に再現できるわけがありません。1992年にリリースされたSuper NES版はCPUの低速ぶりで描画はカックカクのガックガク。1993年にリリースされたSega Genesis版は後発かつ比較的高速な処理速度というアドバンテージがありながらもカックカクでした。

 でも,もし「SA-1」をSuper NES版「Race Drivin’」に使えていたら,どうなっていたでしょうか? SA-1とは,「星のカービィ スーパーデラックス」「実況おしゃべりパロディウス」など1995年以降の一部スーパーファミコン用ソフトに用いられたチップで,本体の3倍のクロック(10.74Hz)で演算が可能でした。Nintendo Switchが8コア・約1GHzの現代からすれば誤差みたいなものじゃんと思わなくもないですが,ROMハッカーのVitor Vilela氏が1万3000行のコードを追加して開発したSA-1最適化版の「Race Drivin’」は,もう笑っちゃうくらいヌルンヌルンです。もとがミニマルな設計なので,セガサターン / PlayStation版よりも粗が見えないとすら言えます。

 というわけで,これは「発売中止になったゲーム」ではありません。ただ先日コロンバスサークルから発売された「ダライアス エクストラバージョン」もそうですが,当時は満足に動かせなかったコードや企画が20年以上を経て再び輝くという意味では、“再誕”の喜びを感じられます。

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 Vilela氏は「SA-1 Root」プロジェクトとして,複数のSA-1最適化版Super NESタイトルをGitHubで公開しています。今後の同氏の活動も非常に楽しみです。

時計じかけのアクワリオ

 「ワンダーボーイ」シリーズで知られるウエストン ビット エンタテインメント(以下,ウエストン)は,1993年に「時計じかけのアクワリオ」というアーケードゲームのリリースを予定していました。使用基板は「マイケル・ジャクソンズ・ムーンウォーカー」「エイリアンストーム」と同じセガのSystem 18。ゲームの内容は,サイドビュー形式のプラットフォームアクションゲームです。

 ロケテストまで実施されたそうですが,1990年初頭は格闘ゲームやベルトスクロールアクションゲームが流行った時代です。ロケテストのインカムは芳しくなく,「プラットフォームアクションは時勢にそぐわない」と判断されて開発は中断されました。

 そうして“幻のタイトル”と化した「時計じかけのアクワリオ」ですが,それを約20年の長きにわたって気にかけていた人物がドイツにいました。Dennis K. Mendel氏――コンシューマゲーム機向けにデジタル販売されるタイトルの限定パッケージ版を制作・販売しているStrictly Limited Gamesを創設したメンバーの1人です。

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 Mendel氏は,「ワンダーボーイ リターンズ リミックス」のパッケージ版をStrictly Limited Gamesが取り扱うことになったとき,ウエストンのリソースなどを保持していたLAT代表取締役の藤原三二氏と接触。同氏が保管していた「時計じかけのアクワリオ」のソースを譲り受け,再開発に着手しました。再開発には,栗原孝典氏,坂本慎一氏,西沢龍一氏といった元ウエストンの人々も複数関わっているそうです。

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 再開発版の「時計じかけのアクワリオ」はPS4 / Nintendo Switch向けに2020年内のリリースとなる予定でしたが,昨今の世情もあり現在は2021年内の発売予定とされています。

ULTRACORE

 Strictly Limited Gamesが復活させた開発中止タイトルは「時計じかけのアクワリオ」だけではありません。2019年には「Battlefield」シリーズで知られるDICEがSega Genessis向けに作っていたものの凍結された「HARDCORE」をサルベージし,追加開発を行った「ULTRACORE」としてSega Genesisおよび互換機向けカートリッジで2019年に発売しました(国内ではコロンバスサークルがメガドライブおよび互換機向けカートリッジとして販売)。

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 Mendel氏は「時計じかけのアクワリオ」および「ULTRACORE」の復刻に関して「“何がどれだけいいものだったのか”を,人はずっと後になって初めて気づく。残念なことに,気づいたそのときにはすでに失われてしまっているかもしれない」といった旨のコメントをメディアに向けて発しています。

 冒頭で述べたようにゲームは死んでしまうことが多々ありますが,それは単に死んだわけではなく,多くのケースにおいて管理を放棄されたがゆえに“殺された”ものであるとも言えます。基盤なくして高い建物は建てられませんが,往々にして人は地面の上にあるものだけを見がちです。そして「あれなら自分にも出来そうだ」と思い込み,砂上の楼閣を築いて,やがて来る高波に多くのものを流されてしまい,後悔するものです。そう,俺達は伝えなければならない。俺達の愚かで,切ない歴史を。それらを伝えるためにデジタルという魔法がある。未来を創ることと,過去を語り伝えることは同じなんだ……(本連載に登場5回目のフレーズ)。


 ゲーム自体のほか,かつてカプコンで「ファイナルファイト」「1943改 ミッドウェイ海戦」のサウンドを手がけた藤田晴美氏は,エイコムが開発した「パルスター」と,夢工房(エイコムがSNK子会社となったもの)が開発した「ブレイジングスター」の間にあったというシューティングゲーム「THEY(仮名)」の楽曲を自身のYouTubeチャンネルで公開されています。こういった音源や設定画などには「制作の着手すらされなかったボツ案」も多々あるものですから,販売中止ゲームよりも多数世の中に眠っているのでしょう。

「パルスター」と「ブレイジングスター」。どちらもNEO・GEO向けのタイトルです
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 そういうのを公開してくれると! こう……マニアが喜ぶし? あとなんか未来の礎となったりするかもしれないし? 権利的に難しいものも多いとは思いますが,いろいろ見てみたいものです。


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