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「JR東日本トレインシミュレータ アーリーアクセス版」レビュー(Impress Watch) – Yahoo!ニュース

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 「JR東日本トレインシミュレータ」が報道されたとき、まずは「JR東日本」と「Steam」の組み合わせに驚いた。9月24日現在、Steamには企業や同人作家など8962のクリエイターが参加している。鉄道をテーマにしたゲームもたくさんある。すべてを精査したわけではないけれど、私の知る限り鉄道会社自身の参加はJR東日本だけだ。

 異業種の伝統的な鉄道企業がゲーム業界に参入するならば、まずはCD-ROMで簡便な仕組みを作り、おみやげとして販売するとか、スマートフォン用アプリになりそうだ。ちなみにスマートフォンアプリとしては相模鉄道が「相鉄線で行こう」を2018年12月から2021年12月まで配信した。これはアートディンクが開発した鉄道会社経営シミュレーションゲーム「A列車で行こう」のコラボ品だった。

 「JR東日本トレインシミュレータ」が発売される背景は実は非常に興味深い。今回、まずはこのゲームがSteamで提供された背景や、本作を開発した「音楽館」というメーカーを紹介した上で、「JR東日本トレインシミュレータ」の感触を鉄道ファンの目線から紹介していきたい。

■ トップブランド・音楽館による業務用レベルの鉄道運転シム

 「JR東日本トレインシミュレータ」がSteamプラットフォームとなった理由は簡単だ。もともとアプリでは収まらないシステムであること、そしてディスク販売では収まらない規模になる可能性を秘めているからだ。いまやPCソフトウェア流通は配信が主体であり、Steamのみならず配信プラットホームには利点が多い。随時アップデート可能であり、追加コンテンツを販売できる。ユーザーはPC買い換えや複数のPCを保有しても随時アカウントを移動して楽しめる。

 配信元としてはユーザーとのコミュニケーション機能や「アーリーアクセス」というシステムも魅力的だ。未完成ながら遊べる段階になった作品や、作品の一部を「お試し版」として頒布できる。ユーザーも試作品と承知しているから、不具合や要望を配信元に提供し、それを採用してもらうことで「より遊びたいゲーム」として製品版を入手できる。もちろんこれらのことは本誌読者には承前のことだけれども、そこにゲーム業界としては異業種の鉄道事業者であるJR東日本が名乗りを上げたところが画期的だ。開発元の推しもあったことだろうけれども、よくわかっていらっしゃる。天晴れである。

 「JR東日本トレインシミュレータ」の開発元は音楽館だ。音楽館というブランド名を聞いただけで「これはもう間違いのない、安心できる作品」だと確信する。なぜなら音楽館は鉄道運転シミュレータファンにとってトップブランドだからだ。

 音楽館の創業は1985年、フュージョンバンド「カシオペア」のキーボードプレーヤー、向谷実氏が業務用録音機材のリース事業などを始めるために作った会社だ。向谷氏はミュージシャンでありながら鉄道趣味人としても知られており、パソコン通信時代は「トレシュミ実」のハンドルネームで電子掲示板に参加していたほど。

 向谷氏は音楽館を通じて1995年にマッキントッシュ版「Train Simulator 中央線」を発売。この時は音楽ファンも鉄道ファンも「ああ、向谷さん、鉄道好きをここまでこじらせたか」と失礼な感想を持ったと思う。しかし、遊んでみれば「自宅のコンピューターで博物館のシミュレータにあるような電車運転体験ができる」と大評判になった。

 ちなみに、タイトーの電車運転ゲーム「電車でGO!」のロケテストは「Train Simulator 中央線」発売の1年後、1996年だ。「電車でGO!」のヒットにより、当時は今よりずっと市場規模の小さかったパソコンゲームの、さらにマイナーな電車運転シミュレータも人気を集めた。

 カジュアルなアーケードゲームに対して、音楽館の「Train Simulator」シリーズは本格派として鉄道ファンに支持され、以降、6年間で21作品が発表された。日本マイクロソフト会長(当時)で鉄道好きとして知られる古川享氏は、OSとしてライバルとなるAppleのマッキントッシュ版「Train Simulator」発売イベントに登壇し、PC業界を驚かせた。その場でWindows版の制作を依頼したというエピソードもある。

 また、2001年にプレイステーション2版の「Train Simulator Real THE 山手線」を発売。以降、コンシューマ機向けに6年間で10作品を発売した。しかし、2007年にプレイステーション3版として発売された「Railfan 台湾高鉄」のあとは一般向け作品が途絶えた。

 このころになると音楽館は実物の鉄道会社と取引を開始している。2004年に九州新幹線の発車メロディを制作。多数の鉄道会社に発車メロディ、車内チャイムなどを提供する。

 音楽館は2006年に業務用鉄道シミュレータを東急テクノシステムと共同制作して東急電鉄の教習所に納入した。2007年には鉄道博物館のD51蒸気機関車シミュレータのプロジェクトに参画。以降、鉄道博物館や実際の鉄道会社の教習シミュレータなどを手がけてきた。いまや音楽館は業務用の鉄道シミュレータ開発会社になっている。

 しかし、イベント用の運転シミュレータなども手がけており、手軽に遊べる作品も続いている。その流れで「JR東日本トレインシミュレータ」の登場を予感させる作品もあった。2022年4月にJR東日本グループの「ホテルメトロポリタン(池袋、丸の内、さいたま新都心、川崎の4館」に「JR東日本トレインシミュレータルーム」が登場した。鉄道開業150周年を記念した企画で、ホテルの1室に音楽館が制作した運転シミュレータが導入された。15年ぶりに「部屋に置けるトレインシミュレータ」が誕生したわけで「市販されるかも知れない」と期待を集めていた。

 しかし、向谷氏に聞いたところ、ホテルメトロポリタン版とSteam版「JR東日本トレインシミュレータ」は「まったく別物」とのこと。収録路線が京浜東北線と八高線で共通しているため誤解されやすいけれども、同じ路線というだけで、システムが違う。ホテルメトロポリタン版は「JR東日本の車両で実際に使用されているものを忠実に再現したマスコンユニット」を設置し、計器パネルも独立した高解像度モニターを設置した。

 それらをリンクするための制御システムが組まれている。大型液晶モニターを採用したため、グラフィック系も異なる。これに対して、Steam版はひとつの画面にすべての情報を納めている。Steam仕様は多くのユーザーが持つ「1CPU、1GPU」で動く仕様となった。

 Steam版「JR東日本トレインシミュレータ」は、音楽館がJR東日本から依頼され、約80区所に納入した実物の運転シミュレータがベースとなっている。したがって、実際の乗務員の訓練装置の挙動がきっちり作られているという。詳細は向谷氏自身が公式YouTubeチャンネルで語っている。

■ 操作は意外にもシンプル、短距離だが満足感あり

 Steamには鉄道をテーマとしたゲームがたくさんある。筆者のライブラリにも「Railway Empire (Kalypso Media)」「Cities in Motion (Paradox Interactive)」「Cities SkyLINES(Paradox Interactive)」「NOSTALGIC TRAIN(Tatamibeya 畳部屋)」「最涯ての列車(Tatamibeya 畳部屋)」「Rail Route (Bitrich.info)」「Sweet Transit (Team17)」「みんなのA列車でいこうPC(アートディンク)」「A列車でいこう はじまる観光計画(アートディンク)」がある。私は最後の2つのA列車シリーズで同梱されたガイドブックの制作に関わっており、かなり遊んだ。ちょっと宣伝(笑)。

 それにもかかわらず、Steamは私に「JR東日本トレインシミュレータ」を「おすすめ」しなかった。上のラインアップからも解るように、私の好みは「箱庭系」で、Steamは鉄道ジャンルを一括りとせず「運転系」と「箱庭系」を分けているようだ。これもすごい。Steamもまた、鉄道趣味の本質を見抜いている。

 「JR東日本トレインシミュレータ(アーリーアクセス版)」の収録路線は前述した「ホテルメトロポリタン版」と同じだけれども、ホテルメトロポリタン版は京浜東北線の南行きの全線、大宮~大船間(根岸線を含む)と八高線上り非電化区間全線、高崎~高麗川間だ。これに対して「JR東日本トレインシミュレータ(アーリーアクセス版)」の区間は短い。京浜東北線は南行きの大宮~南浦和間、八高線は上り非電化区間の高崎~群馬藤岡間だ。電車とディーゼルカーの両方を体験できる。

 路線選択の次は区間と難易度の選択だ。区間は出発駅を選択できる。しかしアーリーアクセス版は収録区間が短いので短すぎると物足りない。この機能は製品版の長距離路線用だろう。難易度は初級、中級、上級の3段階。初級は操作ガイドとHUDが表示される。HUDは停車駅までの距離、勾配などを示す。中級はHUDのみ。上級はHUDなし。ただし現在の仕様ではどの難易度でもHUDのオンオフができる。もっとも大きな違いは「駅停止範囲」だ。停止位置とのズレの許容範囲で、初級はプラスマイナス5m、中級はプラスマイナス3m、上級はプラスマイナス1mとなる。

 初級の操作ガイドは「発車してください」「ブレーキをかけて停車してください」という簡素なもの。この地点からブレーキ、というような優しさはない。ゲームではなくて、シミュレータだからこれは当然だ。警笛を鳴らす機能もあるけれど、発車時や踏切の手前、鉄橋の手前で慣らさなくても減点されない。というより、ゲームではないから点数がない。このソフトの本質は時刻どおりに発車して、速度を守って運転し、定刻より早く駅に到着する。

 本格的シミュレータとはいえ、操作はとても単純だ。マウスのホイールボタンを手前に回すと加速、ホイールクイックでニュートラルに戻り、奥へ回すと減速する。京浜東北線のワンハンドルマスコンに近い感覚だ。ディーゼルカーはマスコンとブレーキが別のハンドルとなっているけれども、マウスの操作は同じ。キーボードでは2ハンドル操作に寄せてマスコンが「Z」「A」「S」キー、ブレーキが「.」「,」「M」「/」に割り当てられている。この部分はSteamコミュニティでキーアサインの要望が出ている。ぜひ実現してほしい。

 加速して駅に停まるだけ。ただ「それだけ」ができるまでが難しい。遅延到着なら良いほうで、オーバーランしたり、停止位置の手前で止まってしまったり。しかし、ペナルティがあるわけではない。初級中級はオーバーランしても定位置に戻って次の駅に向かう。上級は後進に切り替えて定位置に戻す。

 実際の業務用運転シミュレータだったら「こうすればいいよ」と言ってくれる教官がいると思うんだけどな……などと愚痴りつつ(笑)、それでも何度か走って行くとコツが見えてくる。本作品に教官は登場しないけれども、きっとSteamコミュニティや動画でアドバイスを提供してくれる「先輩運転士」が現れるだろう。

 前出の向谷氏の紹介動画によると「大宮駅発車時は前進3段(P3)を維持すると車内信号の速度上昇指示に沿って加速できる。そのまま速度を上げていき惰性走行、時速70キロくらいでプラットホームにさしかかり、ブレーキは6段(B6)で減速する」とのこと。実際にやってみたらうまくいった。ただし、どの駅でも同じ方法は使えない。上り勾配や下り勾配で操作の加減が変わる。だから、駅ごとに停め方が変わる。本物の運転士さんは、こうしたすべての駅の停車パターンを覚えなくてはいけない。たいへんな仕事である。

 パターンといえば、八高線ではATS-P(自動列車停止装置P形)の速度照査制御が再現されている。ポイントなどで制限速度を超えて進入するとATSパターン制御が発動し、自動的に減速する。加減速操作を行なえばパターン制御が解除される。また、60秒間の制御操作がないとEB装置(Emergency Brake 緊急列車停止装置)の警告音が鳴る。一定の速度で気持ちよく走っていても、機械が「運転士が無意識」と判断して警告する仕組みだ。これは京浜東北線の電車、八高線のディーゼルカーとも同じ。

 京浜東北線と八高線の大きな違いは運転台のデザインと信号表示だ。京浜東北線は線路に信号機を置かない。速度メーターの外側に小さな三角印があって、これが許容される最高速度である。この速度を超えるとD-ATC(デジタル自動列車制御装置)が作動し、設定されたパターンと異なると判断して自動ブレーキがかかる。八高線のディーゼルカーは線路脇に信号機や速度標識があり、その速度を超えるとATS-Pが作動する。八高線のほうが景色の中の情報が多い。

 現実感を盛り上げる要素として「音」の再現性がある。プラットホームの発車ベル、八高線のドア閉め後の車掌からの発車合図ブザー、レールの継ぎ目の音、とくに分岐器を通過する時の音が良い雰囲気だ。実際には揺れていないのに、身体が小刻みに揺れている気がした。ぜひヘッドホンで聞いてほしい。

 すべての駅で定刻通りに停車する。これができるようになると楽しくなる。達成感の積み重ねが心地よい。景色を眺め、踏切手前などで警笛を鳴らすなど余裕も出てくる。HUDや計器類を消すなどで、自分自身で難易度を上げ、クリアしていく。その頃にはすっかり景色を覚えて、新しい路線に「乗務」したくなるだろう。

 向谷氏によると、乗務員向けシミュレータはJR東日本の全駅全路線を整えており、その素材を元に「JR東日本トレインシミュレータ」も順次、DLCコンテンツとして走行路線を増やしていく予定。将来はJR東日本のほぼ全線全駅を網羅したいとのことだ。プレーヤーと共に進化していく「JR東日本トレインシミュレータ」の今後が楽しみだ。

 なお、アーリーアクセス版の仕様は製品版で変更される場合がある。本記事掲出後もアップデートされる可能性がある。製品版が出た際には、あらためて紹介したい。

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