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スーパーも映画館もある、認知症患者だけが暮らす「街」―「普通に暮らしている感覚」を提供するオランダの試み – Yahoo!ニュース

「介護の世界では、“普通”ほど実現が難しいことはない」とジャネッテさんは続ける。住人だけではなく、住人の家族が抱く施設への期待にも応えなければならない。どんな形が可能なのか、スタッフは議論を重ねた。その結果生まれたのが、現在の形だった。

リッチスタイル棟の食事風景。シックなインテリア。エチケットやマナーを重んじる

入居してどのように振る舞えばいいか分からないという不安に、環境で答えを示す。介護以外に専門性を持つスタッフがいたことも、アイデアが生まれた背景にあるとジャネッテさんは言う。ジャネッテさん自身、もとはホテルマネジメントを学んでいた。

それぞれの棟にスタッフがいる。もしもみんなと一緒に食事をしたくないという人がいれば、後で用意する。食事、洗濯、掃除、シャワー、着替えなど、スタッフが現場でタイミングを判断し、運営していく。一定の「入浴の時間」「薬の時間」などは設けない。

「全員一斉に行うことに、利点も付加価値もありません。住人もスタッフも自由を奪われるだけですから。スタッフは家事をする時のように、合間にこまごまとした仕事を片付けながら一日を送っています」

施設には、美術、音楽鑑賞、ビンゴなど、住人のためのクラブがある。写真は、スタッフ手描きのお菓子作りクラブの看板

共有スペースでもさまざまな配慮がある。例えばスーパーマーケットでは、働くスタッフが住人の顔と名前、住んでいる場所を把握。各スタッフは、住人が「失敗体験」を感じないように配慮して振る舞う。もし、住人がクッキーをうっかり未払いで持ち帰ったら、スタッフは住人の棟の担当スタッフに連絡する。「〇〇さんがクッキーを持っていきましたが、みんなでコーヒーの時間に利用できますか?」。もしみんなで食べられそうであれば、その家の経費に回し、食べない場合は住人の身元保証人になっている家族に連絡して精算する。

「環境づくりだけでは足りません。失敗体験が症状を悪化させるケースがあるため、さまざまな場面でまわりがフォローする必要があります。ボランティアを含め、ここで働くスタッフはみんな、認知症の人への対処や向き合い方について研修を義務付けられています」

「デ・ホーヘワイク」では、入居者の抗精神病薬などを服用する割合が、10%という低い数字にとどまっている(他施設の平均は25%)。ジャネッテさんは「街のようなつくりで外に出る機会が多く、運動量の多さや日光浴をする時間が長いことも関係するのでは」と分析する。

スーパーマーケットのあるエリアは街そのもの

高層ビルでも実現可能

近年、「デ・ホーヘワイク」の理念は、オランダの多くの施設で取り入れられるようになった。外国からの視察も相次ぎ、すでにオーストラリア、ニュージーランド、カナダなどで導入されている。ジャネッテさんは言う。

「視察に訪れる外国の関係者は『スーパーマーケットを施設の中につくるなんて無理です』と言うんです。でも、どこの施設にもストックを保管しておく倉庫はあるでしょう。それをスーパーにつくり替えればいいのです。スタンダードでないことをするからといって、必ずしもたくさんのコストがかかるわけではありません」

スーパーマーケットのレジ

「私たちのやり方をそのまま真似るのではなく、自国の文化に合う形に置き換えていってほしいと思います。経済レベルや家族構成、仕事の内容、学歴などによってライフスタイルはさまざまです。その違いはとても大きく、『すべての人たちを一つのグループに押し込めても大丈夫』という単一社会は存在しません。多様性に焦点をあて、おのおのの生活パターンに近い形で過ごせる環境をつくる。認知症の人にとって、とくに重要なことだと思います」

「VIVIUM」は数年前、アムステルダムにある介護施設を傘下に入れて、街中にある大型ビルで認知症専門の施設「トーレンダール」をつくった。

トーレンダールの外観

「日本や韓国、台湾、シンガポールなどアジア諸国・地域からの視察では、こちらの施設も併せて見学してもらっています。たとえ敷地面積が小さくても、私たちのコンセプトが実現可能であるということを見てもらっているのです」

ビル内には、グループ住居と個室の両方がある。グループは、「デ・ホーヘワイク」と同様に4つに分けている。館内には、スーパーマーケットはないが、美容院やフィットネス施設がある。海外からの視察団は、既存の建物をどのように改築すれば同じコンセプトの実現が可能になるかという点に注目するそうだ。

トーレンダールを案内してくれたのは、伝統的なライフスタイル棟のケアリーダーを務めるマリケさん

アーティストも多い「文化的スタイル」の個室が並ぶセクション。飾られた絵や調度品に、住人の個性が表れている

コロナ禍での“普通の暮らし”は

コロナ禍において、オランダでは介護施設での面会に規制が設けられた。3月16日にロックダウンが宣言されると、面会が一斉に禁止された。その後、1人につき特定の1人のみ面会ができるなど段階的に制限が緩和され、7月には国による面会規制は解除。各施設が状況に応じて対処している。

「デ・ホーヘワイク」でも新型コロナ感染者は出た。ロックダウン中は、ボランティアの立ち入りを禁止していた。家族とは、電話やビデオ通話など、面会に代わるコンタクトをアレンジした。窓越しで対面できるような、面会の代替方法も実施している。施設内では、ゲームや音楽鑑賞などの小規模なアクティビティーは通常通り行う。

避けられないこととはいえ、スタッフがマスクやメガネなどの保護具を付けていることが、住人に精神的負担を与えているという。また、現場のスタッフは住人たちの安全を守るために、今も私生活での交流を制限している。

「接触を避けることは、住人にもスタッフにも負担になります。風邪のような症状があるスタッフはいつでも検査を受けられるようにするほか、スタッフも心理士のサポートを受けられるようにアレンジしています」

住人に“普通の暮らし”を提供するために、日々工夫を重ねている。

「デ・ホーヘワイク」の中庭

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